平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

強くなければ生きていけない。

 電車の中において、酔っ払っている若者ってのもなかなかに困りものだが、中年、というか、おじいさんおばあさん一歩手前くらいの方たちの酔っ払いにはかなわない。

「あーワタナベさん、そこそろそろ空きそうだから、そこに座んなさいよ」

 などとおばあさん(一歩手前)くらいの方が大声を発していたのである。

 ぼくはベンチシートの一番端の前部分に立っており、そのおばあさん(一歩手前)は、ぼくの立ち位置の逆端、かつ反対側のシートに座っている。つまり、二つのベンチシートを上辺、下辺とする長方形の対角くらいの位置関係である。

 で、そのおばあさん(一歩手前)が「そろそろ空きそう」といいながら指指していたのが、ぼくの前の席なのだ。

 たしかにそこはそろそろ空きそうだったのだが、普通に考えれば、そこに座る優先権はぼくにあるのではないだろうか。なぜならぼくはその正面に立っているのである。

 ……などという思いは、

「あーらラッキー、こんな混んでる電車で座れるなんてー」

 などと雄叫びをあげながら突進してきた別のおばあさん(一歩手前)の勢いに消し飛んでしまった。

 そしてその後は、対角線上のけたたましいおばさんトークである。

 残念ながら内容はよくわからない。iPodを使って別の世界に逃避していたから。