平熱通信

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

ゴースト・イン・ザ・レイン。

 仕事が終わって、さて帰ろうかという時、今朝、傘を持ってきたのかどうかわからなくなった。

 今朝は雨が降っていたのかどうか、降っていなかったとして、傘を持ってきたのかどうか。

 傘立ての前で、しばし考え込んでしまった。

 傘立てには、収容量の半分くらいの量の傘が収まっている。

 僕が帰ろうとしていたタイミングは、定時が過ぎて数時間経っていたので、この傘立て半分という量は、「そもそも雨が降っていなかったので、この半分の傘はもともとあった置き傘」ともとれるし「雨が降っていたので退社した人すべてが傘を持って行き、残ったのがこの半分」ともとれる。

 僕の傘は特徴のないビニール傘だし、今朝の天気を覚えていないくらいなので、傘をどこに置いたのか覚えているわけもない(そもそも、刺さっていない可能性もあるのだ)。

 半分といってもけっこうな量の傘が刺さっている傘立ての端から、自分の一本を捜索する気がなかなか起きない。

 今朝は雨が降っていましたか?

 あなたは、傘を持って自宅を出ましたか?

 答えられないのか、この程度の質問に。

 何かの容疑者になって事情聴取を受けるようなことになったらどうするんだ。

 何をやったか覚えていないって、その時間帯、僕は生きていたといえるのか。少なくとも朝のある時間帯、ぼくは幽霊みたいなものだったんじゃないか。

 雨が降っている。

 この傘立ての前を、どうやって切り抜けよう。