平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

秘密のサロンパス。

ドラッグストアでサロンパスを手に取ったとき、ふと、

「老いたな」

と思ったのであった。

 

子供のころ、休日になると父親の背中にサロンパスを貼っていたのである。

自分では貼りにくいところだから僕を使ったのだろうけど、やれ位置が違うだのシワになったから貼りなおせだの毛の濃いところに貼るなだの、けっこう細かく注意を受けながらの作業だったので、あまり楽しい記憶ではなかった。

そのため、僕にとってサロンパスは、「父親に貼らされるもの」という印象が強く、そこから、「サロンパス=年寄りっぽい」と思うようになってしまったのだろう。

 

ところが。

これが大きな勘違いなのであった。

よくよく考えると、僕がサロンパスを貼らされていた年齢をもとに計算すると、当時の父親は今の僕より若いのである。


父親が僕より若い。


なんだこの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っぽい響きは。

 「親が自分より若かったことがある」って、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、ちょっと盲点のようなところがある(……と思っているのが僕だけでないことを祈る)。

「父親にサロンパスを貼らされていた」

……この場合の父親は実は今の僕より若いのである。ただ、今現在、「父親」という言葉からまず連想する人物は、ウチの娘から「じーじ」と呼ばれているところの、正真正銘の老人なのだ。それらの記憶やら事実やらが頭の中で何回かかきまぜられて、

「年寄りはサロンパスを貼る」

という思い込みが生まれたのかもしれない。


ところでこのサロンパス

数十年ぶりに手に取ったわけだが、それなりの違和感(あれ、色ってベージュだったっけ、とか、こんなに小さかったかしら、とか)はあったものの、独特のにおいはそのままのようで、ちょっと懐かしかった。

甘いわけでも香ばしいわけでも爽やかなわけでもない、でもなんとなく嫌いじゃない、独特の香り。薬くさい、というのが比較的近い例えになるだろうか。

……などと考えていたら、家族が「なんか病院くさくない?」とか、「おとなりが消毒液でも使ってるのかしら?」などと言っているのが聞こえてきた。

なんとなく面白かったので、とりあえず「そうかなあ、気のせいじゃない?」とだけ言っておくことにした。

オレ様の背中には、サロンパスが仕込んであるんだぜ。

君たちが気にしている謎の香りは、オレ様が発しているんだぜ。

今のところこの秘密を知っているのは、我が愛犬だけである(貼っているところを見ていたからね)。彼女(まあ、犬なんですけどね)は口がかたいから、僕が不在の時に白状することはないだろう。