平熱通信

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

オンガク イツマデモ ツヅク オンガク。

某レンタル店で借りたCDのパソコンへの転送作業が無事に終わる。

無事も何も、そもそも失敗するような作業ではないのだが、18枚まとめてやると、妙な達成感がある。
夜明けのコーヒーをしみじみ飲みながら、
「俺はやりきった」
と、つぶやいてみる。
カーテンを開けると東の空はすでに明るくなってきていて、早起きの鳥たちが早口で朝の挨拶をしている。
街はそろそろ目覚めようとしている。静かに、しかし確実に、活気が生まれつつある。
 
大きくひとつ伸びをして街が目覚める。人々の声。自動車のクラクション。腹が減ったと大声で宣言する野良猫たち。
グッドモーニング・ワールド。
世界に向けてまたつぶやく。
「俺はやりきった」
 
……って、そんな大げさな話ではないのである。たかがCDの中身をパソコンにコピーしただけの話なのだから。
むしろ、この手の作業は昔に較べたら格段に楽になったといえる。昔、というのをどこに設定するかにもよるが、1時間収録のCDのコピーに1時間かかっていた時代があったなんて、今のヤングに信じられるだろうか。もっといえば、40分収録のLPレコードを片面20分づつコピーしていた時代もあるのである。大昔の話だ。僕もまだちょんまげとか付けていたかもしれない。
そもそも、今や音楽はネット経由でデータを買う時代なのだ。電子書籍もそうだけど、夜中でも移動中でも、突然欲しくなったときにその場で手に入る、というのはたしかに便利だと思う。データだけなら場所も取らない。僕の小さなウォークマンに何百曲分のデータが入っているのかなんて見当もつかない(数えてみたら1289曲でした)。
 
手に入れたレコードを、時間をかけてカセットテープに録音していたあの頃と、定額聴き放題みたいなサービスを利用すれば一生かけても聴ききれないほどの音楽を浴びることができる今と、どちらがえらいとか良かったとかいうのは意外と簡単なんだけど、僕の個人的なスタンスをいえば、どっちも知ってて得した気分、という感じになるかもしれない。
 
限られた資金でなんとか手に入れたレコードを何十回何百回と聴きこんでボーカルの息継ぎの場所まで覚えてしまった、とか、封入されている歌詞カードやライナーノーツだけでは飽き足らず、一緒に入っていた広告やジャケットに巻いてあった帯まで、とにかく書いてある文字を読まずにはいられなかった、とか、90分しか録音できないカセットテープにどの曲を入れるのか、録音する曲はA面とB面にどう振り分けるのか悩みまくった、とか、長距離夜行バスの旅で、眠れない頭に8時間ノンストップで音楽を流し続けた、とか、定額聴き放題サービスからどんどん掘り出されてくる、ついさっきまで知らなかったはずの魅力的な音楽たちに圧倒された、とか、興味のないジャンルの曲をつい魔がさしてネットで検索してみたら、あまりにキャッチーで耳から離れなくなった、とか。
どれも経験したことがあるけど、どれも面白く楽しい経験だったような気がする。
 
ところで。
18枚の中に、なんとなくジャケットが気になったというだけで借りたものがあったのだが、これがなかなかよかった。ジャケ買いならぬジャケ借りである。たくさん借りるんだから1枚くらいハズれてもいいよね、くらいの気持ちだったのだが、こういうところで新しい音楽と出会うのも面白いものだ。
……なんて思いつつ調べてみたら、もう4年も前から活躍しているバンドのアルバムということが判明したのであった。テレビ番組のテーマソングなんかも手掛けているらしい。
ちらっとでも「お、知られざる原石発見」なんて思ってしまった自分を叱ってやりたい今日この頃。