平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

酩酊と迷走と。

昨日は午前1時に目が覚めたのだ。

外で言い争いをしている人がいるらしく、その怒号があまりにもにぎやかで寝ていられなくなったのである。

登場人物は怒れる酔っ払い氏と、その怒りを治めようとしている誰か。

酔っ払い氏が「なんで東京に住んでいる俺が埼玉なんかに行かなきゃ行けないんだ」と主張すると、相手が「しかしそのように指示されたとタクシー会社の人が」などと応えたりしている。

総合すると、

都内の居酒屋から同じく都内の自宅に帰ろうとタクシーに乗ったのだが、なぜかタクシーは埼玉県某所に向かい、多額の料金を請求された

……というあらすじのようだ。

酔っ払い氏は埼玉に行けなどと言ってはいないと叫ぶし、タクシーの運転手さんは埼玉に行けと指示されたと言うし、間に立ってる人も大変だ。

あれ、そういえばこの「間に立って話を治めようとしている人」って何者なんだ。雰囲気から察すると、事件の当事者ではないようだし。

そんな疑問が頭が浮かんだのとほとんど同じタイミングで、酔っ払い氏が「あんたじゃ話にならないよ、名前は?」と言い放った。実にいい質問である。僕も今それを知りたかったのだ。相手の回答はこうである。

「○○署の××です」

……事態は、僕の予想より先に進んでいたのであった。

ものすごくおおざっぱに言うと、いわゆる「言った言わない」の話なので話はまとまらず、合間合間に、

「都内に住んでいる人間が埼玉に行けなんて言うわけないじゃないか」

とか

「税金だって払ってるんだ」

とか

「警察は民事不介入だろ」

というような発言が、明らかに酔っ払っている人の口調で夜中の住宅街に放たれるのである。

仮に酔っ払い氏の言うことがすべて正しくて、実は悪徳タクシー会社にだまされた哀れな被害者だったとしても、この場の状況としては、お巡りさん大変だなあとしか思えない。

あと、酔っ払い氏の「都内に住んでいる人間が埼玉に行けなんて言うわけないじゃないか」発言だが、飲み会の次の朝、自宅とは反対方向の海辺の駅で目覚めたことがある僕としては「なんともいえないなあ」と思うのであった。あの朝聞いた波の音は、たぶん一生忘れないだろう。

 

3時半ごろに雨が降り始め、永遠に続くと思われたやりとりは段々音量を下げていき、いつしか人の気配もしなくなった。

人間界の争いなどはしょせん瑣末なもので、大自然のご機嫌の前では無力なものなのだ、というあたりが今回の結論ということになるのだろうか。

ちなみに、僕が聞いた酔っ払い氏の最後のセリフは、「わかったよ裁判だよ」なのであった。