平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

零時少し前、遠足が終わる。

金曜、土曜と外でお酒を飲む行事(行事?)が続き、そこそこぐったりしている日曜日である。

 

もともと強いわけではないのだが、やはりというかなんというか、年齢を重ねる毎に徐々に徐々にアルコール耐性が下がっているような気はする。もちろん、年寄りの酒豪だって若い下戸だっているわけで、みんながみんなそうだとまではいわないが、そういう人は多いのではないだろうか。

 

そういえば、昨日の飲み会も、メンバーのひとりが眠り込んでしまい、おひらきになったのだ。若い頃からお酒がまわるとウトウトする性質ではあったのだが、昨日のウトウトっぷりはすごかった。

眠たくなって、軽く前後に身体が動くのがウトウトだとすれば、昨日の状態は、ブンブンとかグオングオンとか、そういう勢いがあった。その勢いで頭を揺らし、万が一、居酒屋のテーブルに頭突きでもするようなことがあれば、確実にテーブルが割れる。そういうレベルの振り幅とスピードだ。

器物を破損するのはまずいので、起きている面々は急いで会計を済ませ、彼を引きずるようにして帰ることにしたのである。

 

帰りの電車で、僕の肩にもたれて眠る彼をぼんやり見ていたら、ふと、

「そういえば、この人は中学生のときモテモテだったんだよな」

ということを思い出した。

勉強も出来て、スポーツも出来て、学区内で一番の高校に合格した。

剣道部の部長で、趣味でサックスを吹いていた。

爽やかなルックスで、誰にでも優しくて、男子にも女子にも大人気。

ドラえもんでいうところの出木杉くんみたいなポジションだろうか。

 

はて、その頃の僕はどうであったかな、と思い出そうとしたのだが、うまく記憶がよみがえってこなかった。おそらく、僕の脳のどこかが無意識のうちに警報を発しているのだろう。「彼の事を思い出した後に自分の事を思い出すな! 傷つくぞ!」

 

その後、彼は彼なりにいろいろあり、僕は僕なりにいろいろあり、この年齢になった。

で、たまにこうして飲みに行ったりして、眠たくなるまでバカ話をする。

 

それにしても。

これだけ熟睡していても、だらしなく口を開けたりヨダレを垂らしたりしないのはさすがだ。やはり出木杉くんは違う。

なんてことを考えていたら、静かに笑いが込み上げてくる。

 

多少の例外はあるのかもしれないけど、長く生きれば生きるほど人生は複雑になっていくのではないだろうか。日ごろは積極的に見ないようにしているけど、ちょっと後ろを振り返ってみると、引き出しの奥のほうに面倒くさい問題がいくつか転がっていたりする。

だからこそ、たまにこういう「出木杉くんがたくさん飲んで眠くなったからといってところかまわず寝てしまう件」というようなシンプルな事件が起きるととても楽しい。おそろしく素直に「ふはははは」と笑える。

 

最寄駅で彼を降ろし、一緒に飲んでいた他のメンバーに「今、最寄り駅で降ろしました。なんだか人工衛星はやぶさのスタッフの気分。ウチに着くまでが遠足です。総員無事を祈る」という内容のメールをして、今日の飲み会はようやく終わる。