生きる。
最近、ようやくセミの鳴き声を聞くようになった……と思っていたら、ぼちぼち道に落ちているセミを気にして歩かないといけない時期に入ったようだ。生き物の一生の価値はその長短とは関係なく、どれだけ悔いなく過ごすことができたかどうかが肝心だ……というのはわかっているのだが、やはりセミの一生は慌ただしいなあ、と思ってしまう。
そろそろ見ることの多くなったセミのご遺体については、なるべく安らかな状態にしておきたい、というのが僕の見解だ。そばを通ることがあれば心の中で「お疲れさまでした」とつぶやき、これもあくまで心の中になってしまうが、手を合わせるくらいのことはしたいと思っている。
なので、ご遺体のふりをして沈黙しておいて、僕がそばを通った時に、
「まだだ。まだやられんよ」
とばかりにじたばた動いたり超低空飛行で飛んでみたりするのはできればやめていただきたい。
こちらは自慢じゃないが都会育ちのもやしっ子出身者なのだ。そういうのは本気でびっくりするのである。
今朝、会社そばの歩道で、
「ヘイヘーイ、ここを通りたかったらおれたちを倒してからにしな」
と、地面近くを断続的に移動する二匹のセミにからまれた時には、
ひょっとすると、今日は会社にたどり着けないかも
と思ったのであった。
いやまあ、がんばって出社はしましたが。