平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

神の右手人差し指。

娘の話によると、僕はガチャの運が大変強いらしい。
ここでガチャというのはスマホのゲームなどによくあるクジみたいなもので、ゲーム内で使えるアイテムなどがもらえたりする。
クジだから当然、当たったものに優劣があり、いいアイテムは「レア」とか呼ばれたりする。
娘が熱心にやっているゲームにもガチャがあるのだが、自分でひいてもあまりいいものがあたらないにも関わらず、代わりに僕がひくとレアなアイテムがわりとコンスタントにあたるらしいのだ。

娘はスマホを持っておらず、iPod Touchでゲームをやっている。
スマホではないので、基本的に自宅の無線LAN環境内でしかゲームをすることができず、ゲームができる時間も、僕が設定した数時間に限られている。

先日、ゲームの中で、その日限りの特別なガチャが行われた。
なんといっても特別なので、できればはずしたくない。ならば、確率的にも父にガチャをひかせるべきだ。……娘はそう思った。
ところが、運悪く、その日、僕はすでに就寝していたのである。
娘がゲームをすることを許されている時間はあとわずか。明日になったらその特別なガチャはもうやっていない。できれば叩き起こしてでもガチャをひかせたいところだが、さすがに、ガチャのためだけに親を起こすのは気が引ける。

で、困り果てた娘がどうしたのかというと、眠っている僕の人差し指をつまみ上げ、その指でガチャをひいたのである。
そこまでしたくなるほどの強運らしいのだ。

ところで、僕は僕でわりと熱心にやっているスマホのゲームがあって、その中にもガチャという制度は存在している。
そこでもらえるものは、ゲームのキャラクターの武器となるアイテムだ。ぜひともいいアイテム……このゲームの中の言い方でいうと、「スーパーレア」とか「ウルトラレア」なヤツが欲しいのだが、そんなものはめったに当たったことがない。自分の経験だけでいうと、とても強運とは思えないのだ。

そこで娘に、「とても自分が強運だとは思えないので、この際、大事なガチャを代行してひく役目を引退したい。気分的な問題はおいておいて、本当のところ、誰がやったって当たる確率は変わらないんだから、大事なガチャであってもキミ自身でひいたらどうだろう。というか、寝ているときに指とかつかまれるとすごくビックリするので、もう勘弁してほしい」というようなことを言ってみた。
娘は、遠い目をしてこう答えた。なにかちょっと、悟った人間のような冷たい眼差しであった。
「ガチャは、無欲な状態でやらないとダメなんだ。人間って、どうしても欲が出ちゃうじゃない。自分がやっているゲームにハマればハマるほど欲が強くなるから、どんどんガチャで当たりがひけなくなっていくんだよ。だから、ガチャは、自分でやっちゃダメなんだ」
……不思議な凄みのあるコメントであった。

最近、娘は、飼っている犬にガチャをひかせるべく特訓をはじめたらしい。娘の自説「ガチャにおいては無欲が最強」が正しければ、犬こそ最強のガチャマスターのはず……なのだそうだ。なかなか指示したボタンを押してくれないからけっこう苦労するとのこと。

なんというか、犬、ちょっとかわいそう。