平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

最新作公開。

僕の父親は、何年かに一度、テレビに出ることがある。
父の職業は会社員のようなもので、正確にいうと、ある会社を一度定年退職し、その後、同じ会社で非常勤として働いている。芸能人でも文化人でもアスリートでも芸術家でも犯罪者でもない。
ただ、同じ街で数十年働き続けている、会社員(のようなもの)なのだ。

その街は、昔からある学生街で、時々、「芸能人がぶらりと散歩をする」番組とか、「その街の魅力を一時間くらいかけて特集する」番組等に取り上げられる。その時に、わりと高い確率で「その街の過去に詳しい人」として、インタビューをされたりするのだ。

ところで、父は僕の父だけあって大変な人見知りなのである。そこそこ回数をこなしている今となっても、インタビューを受けるのは苦手らしい。苦手なら断ればいいと思うのだが、まあ、真面目な人だから、頼まれたら断れないのだろう。

ということで、父がテレビに出るたびにそれを録画して、ビールを飲みながら、
「あ、緊張して声が高くなった。ぐふふ」
とか、
「あ、冗談言おうとしてすべった。ぐふふ」
などと言いつつそれを鑑賞するのが我が家(というか僕)の定例行事なのである。
ちなみに、父のテレビ出演情報が、父から連絡されることはない。毎回、母からのタレコミなのである。本当に、よほど見られたくないのだろう。ぐふふ。

ひとつの街で数十年、真面目に働き続けるという日々の積み重ねが、何らかの価値になることがある。その価値は、「取材する側にとって便利」というだけのものなのかもしれないし、そもそも父はその価値を欲しいなんて思っていないかもしれないが、これはちょっとすごいことのような気がする。少なくとも僕には真似できないことだ。

そんなわけで、父の最新の出演番組が明日放送されるようだ。どうも今回は、高田純次と対決するらしい。
ぐふふ。