平熱通信

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

何でもないような事が、幸せだったと思う。

日々の平穏な生活……興奮とか熱狂とか、そういう言葉とは無縁の、少し退屈な時間かもしれないけど、そのかわり、困ったりつらかったり痛かったりすることもあまりない、そういう日々。

贅沢さえ言わなければ、そういう日々はずっと続くのかと思っていた。
昨日も、今日も、そして明日も。

そうではなかった。

平穏な日々なんて、ほんの些細なハプニングで、簡単に(本当に簡単に)壊れてしまうものなのだ。
「それ」が起きる前は天然色に塗られていた時間が、「それ」の後、色を失いモノクロームになる。それは一瞬の出来事で、気付いたときには色付きの時間は過去へと流れ去っている。時間は不可逆だ。前にしか進まない。過去はものすごい速さで僕の手をすり抜けて、みるみる小さくなっていく。

というわけで。
日曜の夜、ガス給湯器が壊れたのである。
それにより困ることはいくつもあるだろうが、直近の問題は、風呂もシャワーも使えない、ということだろう。僕はお風呂大好き人間というわけではないが、一応(一応?)、勤め人のはしくれではある。これは、なかなかまずいことなのではないだろうか。

風呂もシャワーも使えないと思うと、体がやたらと汗くさいような気になってくる。ふと気になって二の腕をさわってみると、おそろしくベタベタしているような気もする。人間とは繊細な生き物だから、心の持ちようで自分の体についての把握の仕方が変わってしまうのだろう。
今日が、いつもより割増で汗くさいということはないはずなのだが、一度、「今日、すげー汗くさい」と思ってしまうと、もうそういう風にしか考えられなくなる。

僕は、とても汗くさい。
おそらく、関東一くらい汗くさいのではあるまいか。

僕は今、そこまで思い込んでいる。この事態をなんとか解決しないと、この思い込みはどこまでエスカレートするかわからない。

「こんな汗人間が会社になんか行けるものか!」

などと言い出す前に、なんとかしなければならない。