平熱通信

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

名警部再登場。

地下の印刷工場には父のパソコンのスイッチはなかった。捜査はふりだしに戻ったわけだ。今回は長期戦になるかもしれない。
地下からの階段を上りきり、その入り口になっている床下収納のフタを閉める。一応、フタを両手で押してみて、ガタツキがないことを確認した後、おもむろに顔を上げる。するとそこには、警官の顔があった。人数にして十数名。よくもまあこのせまい台所にそれだけの人数が入れたものだ。応援を要請していた地元警察が到着したのだろう。まさかこんなに大勢来るとは思わなかった。
それはそうと、彼らの制服には「埼玉県警」と刺繍が入っている。しかしここは西東京だ。微妙な違和感があるが、日本の警察組織の中では、西東京も埼玉もざっくりいってだいたい同じ、というくくりになっているのだろうか。俺もそういうことは気にならない性質なのでそれ以上気にしないことにする。

俺が「ご苦労さん」と言おうとするのと、警官のひとりが「貴様がスイッチだな」と言うのがほぼ同時であった。残りの警官たちは用心深く俺を取り囲んでいる。一瞬、何を言われたのかわからなかったが、俺は瞬時にこの状況について推理した。おそらく彼らは「消えたスイッチを捜す」という指示しか受けていないのだろう。そして、「スイッチ」を容疑者のニックネームだと思っているのだ。
「俺はスイッチではない」
なんて間抜けなセリフだろうと思いつつ、俺は言った。しかし警官たちは信じない。俺を取り囲む警官たちの輪はどんどんその直径を狭めている。四方八方から押されているような状態だ。
警官のひとりがこう言った。
「我々がここに到着してからこの家に現れた不審者は貴様しかいないのだ。それも地下から登場とはいかにもあやしい。ましてや、今、この家は蟻一匹出入りできる隙間もないくらいの厳重警備中なのだ。まあ、縦7ミリ横12ミリくらいのプラスチック板の裏に電気部品がくっついていて、いかにも押したらカチカチいいそうなモノがこそこそとベランダから出て行ったりはしたが、しょせんはプラスチック……」
俺は警官の言葉をさえぎるように叫んだ。

「ばっかもーん。そいつがスイッチだ!!」

……ふと気付けばまたこんなデタラメを書いてしまった。これ、クセになるな。