青年の主張2016
週末、某レンタル店にてCDを借りる。
「某レンタル店」なんてわざわざ書かなくても、ツタヤでいいじゃないか、という気もするが、なんとなく「某レンタル店」のほうが大人っぽいような気がするので、そう書いてみた。
今、CD10枚を1000円でレンタルできるキャンペーン中なのである。最新作はそのキャンペーンの対象外なのだが、こちらとしては、例えばそれが5年前のCDでも、「お、新し目じゃん」というくらい度量は広い。極端にいえば、西暦2000年以降のものはだいたい「新し目」だ。
そう考えると、10枚1000円キャンペーンの対象となっている、いわゆる「旧作CD」も、大半は「新し目」と把握していい。これが大人になるということだ。見よこの時間の捉え方のスケールの大きさを。
ということで。
CDを選び、レジに持って行ったときのことである。
店員さんが1枚づつ盤面をチェックし、傷が入っているものがあれば、レジ奥の研磨機(正式な名前は知らないけど、汚れたCDをきれいにする機械ですね)にかけてくれる。
その待ち時間に、なんとなく、となりのレジの店員さんとお客さんの会話が聞こえてきた。
どうやらこのお客さんは、メンバーズカードを新規で作りたかったようなのだが、必要な身分証明書を持ってきていないらしい。店員さんは丁寧に謝りながら、出直すようにお願いしている。
個人的には、そりゃ出直すしかないかな、と思ってしまうのだが、このお客さんはそうではなかったようで、
「でも、家には(身分証明書が)あるんです」
とか、
「生まれてからずっとこの街に住んでます」
とか言いつつ、なかなか引き下がらない。ちらりとルックスを拝見すると、歳は二十歳前後、真面目な学生さん風の青年で、こういうところでダダをこねるタイプにも見えない。ひょっとすると、本当に純粋に「この街の住人だってことを証明する必要? なんでそんなものが必要なんだよ。だってここは、俺が生まれた時から住んでいるホームタウンだぜ。この街のことなら、俺、なんでもわかる。隅から隅まで」とか思ってるのかもしれない。
店員さんとしても「そうおっしゃられても」とか、「規則ですので」とか言うほかなく、なかなか決着が見えてこない。いくつか言葉を交わした後、とうとう言うべきことがなくなったのか、青年は黙り込んでしまった。
数秒後、何かを決心した顔つきで青年は言った。
「あの、今まで言えなかったことがあったんですけど、ちょっと見てもらいたいものがあって」
思わぬ展開に驚きつつ、その発言に飛びつく店員さん。
「あ、なにか身分証明書になりそうなものがありましたか?」
青年はジーパンのポケットに手を突っ込みながらこう言ったのであった。
「3月まで通ってた学校の学生証があるんですけど、あ、卒業した高校のなんですけど、これなら……」
「ダメです」
店員さんの応答は素早かった。
僕も、そりゃダメです、思った。
その後、僕が借りるCDの盤面チェックが終わり、そのままお金を払ってお店を出てしまったので、その青年がその後どうなったのかはわからない。
ところで。
今回利用したCD10枚1000円キャンペーンは、2枚組とか3枚組のCDでも1枚としてカウントしてくれるのである。
お店でCDを見ているときには、それが何枚組かなどという細かいことはまったく気にしていなかったのだが、帰宅後に数えてみたらCDが18枚もあった。
2枚組のものや3枚組のものも含めて10組18枚である。盤面チェックに時間がかかっていたわけだ。