平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

お気に入りは森永ラムネ。

朝、娘が、「図書館に勉強しに行く」と言い出す。ちなみに今は定期試験期間中なのである。
勉強するのが目的で図書館に行く、というのが彼女にしては珍しいような気がして、「図書館とは珍しいね」と声をかけたところ、彼女は真顔で、静かにこう答えたのであった。
「こんなところで、勉強なんてできるわけないじゃん」
……。
……。
……。

それはつまり、マンガやらアニメのグッズやらで雪崩を起こしているキミの机のことを言っていますか?
要は、自分の机だとノートを使うスペースが充分に確保できないので、図書館に行く、ということなのである。
それにしても、「こんなところで、勉強なんてできるわけないじゃん」とは、誤解を招きそうな言い回しである。拡大解釈すれば間違いではないかもしれないけど、外で言わないといいなあ、とちょっと思う。

娘は、リュックサックに大量の学用品とiPodと麦茶を入れた水筒と一口で食べられるくらいの大きさのパンとキャンディとラムネ菓子を詰め込んで、あわただしく出て行った。大荷物だ。

ところで。
我が家において、試験期間中のラムネ菓子は必須アイテムになっている。
ラムネ菓子の主原料はブドウ糖で、脳の栄養として大変優れたものなのだ。なので、ラムネ菓子で脳の疲れを癒しつつ学習する、というのは勉強法としては効率がいいのである。
……という情報をネットで手に入れて以来、娘の定期試験期間中にラムネ菓子を支給するのが僕の役目になったのだ。
支給をはじめたのが、彼女が中学に入ってはじめての定期試験の頃だったから、この制度ももう4年目になる。

昔、難しい書類ばかり読まなければいけない現場にいたとき、僕の引き出しにもラムネ菓子が常備されていた。退屈な文章を読みながら、眠たくなるとラムネ菓子をぼりぼりとかじったものだ。
彼女にラムネ菓子を支給しているここ数年の実績と、自分がラムネを常備していた頃の実績から考えると、ラムネ菓子がどこまで効果をあげているのかよくわからないところもあるのだが、こういうのは思い込みが大事なのである。プラシーボ効果大歓迎だ。

現役女子高生が、試験前になると親から駄菓子をもらう。
こう書くと、なんだか不思議な習慣である。
いつまで続くのかなあ、なんて想像するとちょっと楽しい。