平熱通信:旧

ここは世界の片隅にすぎないが、いろんなことが起こる。

思いだけが伝わらない。

実家の父からLINEでメッセージが来る。どうやらパソコンの調子が悪いらしい。
状況によっては実家に帰って実機を見る必要がある。まずは情報収集、ということで、「どういう問題が起きているか、わかる範囲で教えてください」という返信をする。ちなみに僕はメールやLINEの文面は丁寧語になることが多い。性格が丁寧というのではなく、単に語彙が少ないのだ。
父からの続報にはこのようなことが書いてあった。

「パソコンを使おうとしたら電源のスイッチがなくなっていた」

……額面通り受け取ってしまうと機械部品マニアの泥棒か妖怪の仕業としか思えない現象だ。
おそらく今、父は相当あわてているのだろう。これ以上あれこれ質問するよりも、直接パソコンを見に行ったほうがいいかもな、などと思っていたら、次のメッセージが届いた。

「I PATのパスワードも入力できない」

「I PAT」とは、父が愛用しているiPad miniのことだろう(おそらく)。
タイプミス自体はよくあることとして、問題は、パソコンの不調という問題に、どうしてiPadが登場するのか、ということだ。

本人は一生懸命説明しようとしているが、うまくまとめられなかったり、ちょっとした間違いがあったりして、他人にうまく伝わらない、ということはよくあるものだ。それが、日ごろ興味がなかったり、不得意だったりするものだと、その可能性はより高まるだろう。

僕にもよくそういうことがある。
会社で仕事をしていると、たまに打ち合わせのようなものに出席しなくてはならないことがある。
僕はあれがあまり得意ではないので、出席した際は、なるべく隅っこの、目立たないところで、極力小さく見えるように椅子に深く座ったりしているのだが、それでも時々、発言をしなければならない時がくる。
そういう時はたいてい、要領を得ないことを早口でまくしたてることになるのだが、これは決して真面目に考えていないからではないのである。単に仕事が不得意なのだ。

ちょっと話がそれてしまうが、打ち合わせが終盤にさしかかり、ほぼ話もまとまった、というタイミングで、「今回、発言がなかった人にも、最後に機会を作ってあげよう」みたいな感じで発言を求めてくる人がいるが、個人的にはそういうお気づかいはノーサンキューなのである。
「言いたいことがあったのだけれど、タイミングを逸してしまった」ということもあるから、そういうお気づかいが有効に作用する場面もあることは承知している。ただ、僕にはノーサンキューだ。
僕が口を開かない時は、言うべきことを何も思いつかない時だ。……と、思い切り断言してしまったが、打ち合わせの場みたいなところではあまり感心できないことだろうなあとは思う。どうもすみません。